複数事業の戦略を見極める「PPM分析」とは?活用法と実践テンプレート

フレームワーク・テンプレート
目次

はじめに:複数事業における選択の悩み

「どの事業に力を入れるべきか?」
「この製品ラインは本当に残す価値があるのか?」
「リソースを分散しすぎて、どれも中途半端になっていないか?」

複数の事業やサービス・製品ラインを抱える企業にとって、経営資源の最適配分は永遠の課題と言えるかもしれません。変化のスピードが加速する現代、経営者や事業責任者は「機会損失・過剰投資に陥るリスクを減らしつつ効果的な意思決定をする」という難しい舵取りを求められているのではないでしょうか。

そこで有効なのが、有名なPPM分析(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)というフレームワークです。視覚的に事業を分類し、投資・撤退の判断を助けてくれる強力な戦略ツールです。

PPM分析とは何か?

市場成長率 × 市場シェア の2軸で分類

PPM分析は、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)によって提唱されたフレームワークです。

🔗 BCG公式解説ページ「成長シェアマトリックス」(英語)


企業が持つ事業や製品を、以下の2軸でマトリクス化して分類します:

  • 市場成長率(High / Low)
  • 市場シェア(High / Low)

これにより、各事業が置かれている市場環境と、自社の立ち位置を整理できます。

4つの象限で戦略を見極める

PPMマトリクスは市場成長率×市場シェアの2軸からなる4象限に分かれます:

1. 花形(スター)

高成長市場 × 高シェア
→ 積極投資。将来の中核事業に成長する可能性。

2. 問題児(クエスチョン)

高成長市場 × 低シェア
→ 育成するか、撤退するかを判断。投資判断が鍵。

3. 金のなる木(キャッシュカウ)

低成長市場 × 高シェア
→ 投資を抑えながら利益を生み出し、他の事業を支える。

4. 負け犬(ドッグ)

低成長市場 × 低シェア
→ 縮小・撤退を検討。リソースの無駄を防ぐ。

なぜ今、PPM分析が必要なのか?

近年は、市場の変化スピードがかつてないほど高速になっています。技術革新、消費者ニーズの変化、外部環境の変動(パンデミック、地政学的リスクなど)が、事業の価値を一気に塗り替えます。

このような環境下では、「なんとなく成り立っているから」と現状維持を続けることが大きなリスクになりえます。PPM分析を導入することで、次のような意思決定がしやすくなります:

  • どの事業に重点投資すべきか?
  • 継続する価値があるのか?
  • 他事業への資金源として活用できるか?
  • すでに衰退している事業はないか?

PPM分析の導入ステップ

PPM分析を行うには、次の3ステップで進めると効果的です。

Step1:事業や製品の棚卸し

まずは自社が現在展開しているすべての事業・製品ラインを洗い出します。
カテゴリや事業単位で整理し、「どこにどんな資源が投下されているか」を可視化します。

Step2:市場成長率とシェアを評価

  • 市場成長率:前年比成長率、市場全体の成長性、未来の可能性
  • 市場シェア:競合との比較、自社のシェア割合

数値があれば理想的ですが、社内評価・現場感覚でも構いません。
「見込み」や「仮説ベース」でも思考を進めることが大切です。

Step3:マトリクスに配置し、戦略を立てる

各事業を4象限に分類したうえで、次の問いを検討します:

  • スター事業の将来計画は?
  • クエスチョンにどれだけ投資できる?
  • キャッシュカウの収益性は保てているか?
  • ドッグは本当に撤退すべきか?ニッチ展開の余地は?

アイディア・レーンなら、PPM分析がもっと直感的に使える

思考整理ツール「アイディア・レーン」では、PPM分析をすぐに始められる無料テンプレートを提供しています。

▶︎ このテンプレートで新規作成する(無料)

アイディアレーンでPPM分析をするメリットは以下のとおりです。

特長1:レーン構造で分類しやすい

縦軸(市場成長率)と横軸(市場シェア)をレーンとして表現。
事業をマス目にドラッグ&ドロップするだけで、ポートフォリオが完成します。

特長2:自由な階層化やコメント追加も可能

  • 事業 → サービス → 機能 といった階層構造もOK
  • 各事業にメモ、KPI、想定顧客などを追記可能
  • 社内共有時の背景説明にも使える

特長3:リレーション機能で戦略の流れを可視化

  • スターからキャッシュカウへの移行
  • クエスチョンがドッグ化するリスク
  • ドッグ事業を再定義し、ニッチ展開を試す

などの関係性を線で可視化することで、戦略の流れが一目で分かるようになります。

簡単な利用例

例1:大手食品メーカーの製品整理

  • スター:冷凍食品(高成長・高シェア)
  • キャッシュカウ:即席麺(成長鈍化・高シェア)
  • クエスチョン:植物由来ミート(成長性あり・低シェア)
  • ドッグ:レトルト食品(低成長・低シェア)

→ 冷凍食品に資源集中し、キャッシュカウの収益を活用して新規事業を育成。

例2:ITベンチャーのアプリ整理

  • スター:主力SNSアプリ
  • クエスチョン:開発中のAIカメラアプリ
  • キャッシュカウ:旧作ユーティリティアプリ(広告収益安定)
  • ドッグ:利用停止が続く法人向けツール

→ クエスチョンの方向性次第で投資を拡大。ドッグは段階的終了を検討。

PPM分析を活用する際の落とし穴と注意点

1. 数字だけで判断しない

PPM分析の問題点として、「事業ドメインの定義(範囲)で4セルにどこに位置するか変わってしまう」ことや、「事業間のシナジーが考慮されづらい」といったことが指摘されます。

実際、事業ドメインをどう決めるかによって成長率やシェアの見え方は変わってきます。
また仮に成長率やシェアが低くても、ブランド価値や顧客ロイヤルティが高かったり他事業との技術などのシナジーがあるかもしれません。

そういったことから定量だけでなく定性面からの判断も欠かせません。

2. 仮説の検証をする

定量的データ+定性的情報をもとに判断するとしても、未来を読んで意思決定するのはそもそも難しいもの。
成長・衰退シナリオを複数パターン想定し、もし当初の想定と異なる結果や状況を察知したら見直すなど、意思決定の結果を過信せず定期的にチェックしましょう。

PPM分析とアンゾフの成長マトリクスの違い

四象限で分けるフレームワークは他にもSWOT分析など様々なものがあります。特に軸に「市場」を持っている点ではアンゾフの成長マトリクスとPPMとは類似性があり、混乱する人もいるかもしません。

PPM分析(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)とアンゾフの成長マトリクスは、どちらも事業戦略を立てるためのフレームワークですが、目的や分析対象、使う場面が大きく異なります。以下に両者の違いをまとめます。

比較項目PPM分析アンゾフの成長マトリクス
目的複数の既存事業・製品ラインの資源配分と整理成長戦略の方向性(新市場・新製品)を決める
分析対象現在保有している事業・製品群今後の事業展開のパターン
分類軸市場成長率 × 市場シェア市場の新旧 × 製品の新旧
主な象限スター/クエスチョン/キャッシュカウ/ドッグ市場浸透/新市場開拓/新製品開発/多角化
主な使い方どの事業に投資すべきか/撤退すべきかを判断どんな方向で事業を成長させていくかを設計
視点の時間軸現状の事業ポートフォリオの評価未来の成長機会の探索と戦略立案
活用フェーズ資源配分、経営会議、撤退判断など新規事業の企画、中期経営戦略の立案

🎯 具体的にどう使い分けるか?

  • すでに複数の事業を持っている企業
    PPM分析でポートフォリオ全体を評価し、「守る・攻める・捨てる」を明確にする。
  • これからどの市場・製品に進出するか考えたい場合
    アンゾフの成長マトリクスを使って、「新市場に行くのか?」「既存市場に新製品を投下するのか?」を整理する。

✍️ 実務上の併用例

たとえば:

  • PPM分析で、既存の「ドッグ」事業から撤退を検討
  • 空いたリソースを使って、アンゾフの「新市場開拓」や「多角化」戦略に挑戦

という流れで、現在を整理して未来を設計するという連携も可能です。

負け犬から金のなる木に変えるためのポイント

PPM分析において「負け犬(Dog)」は、市場成長率も低く、市場シェアも低い領域を指します。

こうした事業や製品は投資優先度が低く、撤退対象とされることが一般的ですが、適切な戦略を講じることで「金のなる木(Cash Cow)」――低成長ながら高いシェアを獲得し、安定的に利益を生む領域――に転換できる可能性もあります。

以下では、そのための具体的なステップと考え方を示します。

1. 市場シェアの底上げを目指す

  1. コストリーダーシップの徹底
    • 現状コスト構造を分析し、原価低減や業務効率化を進めることで、競合他社よりも低価格で提供できる体制を構築します。
    • 例:製造プロセスの見直し、人件費や物流コストの最適化、外注先の再選定など。
  2. 製品・サービスの差別化
    • 価格競争だけでなく、独自の機能や付加価値を打ち出すことで、競合優位性を確立します。
    • 例:既存機能に加え、新たな付加機能を搭載したり、サポート体制を強化して「使いやすさ」や「安心感」を前面に出す。
  3. プロモーション戦略の強化
    • 負け犬領域は露出が少ないことが多いため、ターゲット市場に合わせたプロモーションを実施し、市場シェアの拡大を目指します。
    • 例:展示会への出展、Web広告の最適化、既存顧客からの紹介キャンペーン実施など。

2. ニッチセグメントへの再定位(ポジショニング変更)

  1. 細分化した顧客ニーズへの対応
    • 総市場でシェアを獲得しにくい場合は、市場をさらに細分化し、競合が手薄なニッチ分野に特化することで高シェアを獲得することを検討します。
    • 例:業界全体向けではなく、特定業種・特定用途に絞ったソリューション提供に注力。
  2. 高付加価値サービスへの転換
    • 価格競争では勝ちにくいため、製品そのものではなく、アフターサービスやメンテナンス契約、サブスクリプションモデルなどで収益モデルを再設計します。
    • 例:初期費用を安くして導入ハードルを下げ、サポートや定期メンテ業務で継続的に収益を得るモデルに転換。

3. アライアンス・提携による市場シェア拡大

  1. 販売チャネルの拡充
    • 自社単独での販路開拓が難しい場合は、すでに強い販売チャネルを持つ企業と提携し、自社製品を共同で取り扱ってもらう。
    • 例:代理店網へのオンボーディング、OEM提携による製品供給など。
  2. 共同開発/共同マーケティング
    • 製品ラインナップを補完し合える企業と共同で新機能を開発し、クロスマーケティングを行うことで認知度を高める。
    • 例:ソフトウェアのAPI連携やハードウェアのパーツ共通化による相互送客。

4. 製品ポートフォリオの再構築(M&Aや統合も含む)

  1. 関連事業との統合
    • 負け犬事業とシナジーが見込める自社の強み領域と組み合わせ、「セット販売」や「バンドルパッケージ」で市場シェアを獲得する。
    • 例:ソフトウェア+ハードウェアを一括提案するIoTソリューションパッケージなど。
  2. M&Aによるシェア獲得
    • 自社単独では市場シェアを伸ばせない場合は、同業他社の事業を買収することでシェアを一気に拡張する。
    • 注意点:買収コストとシナジー効果を見極め、統合後にコスト構造改善やブランド統一を徹底する必要がある。

5. 競合優位性を保つための継続的改善

  1. 顧客フィードバックの活用
    • 負け犬状態の製品は顧客への訴求ポイントが弱いケースが多い。既存顧客から定期的にヒアリングし、不満点や要望を迅速に反映することで、離脱を防ぎつつ優良顧客を増やす。
    • 例:顧客の使い方調査、サポート問い合わせの定量分析、UI/UX改善など。
  2. 市場動向のモニタリング
    • 回復余地のある市場かどうかを常にチェックし、競合の動きや顧客ニーズの変化に合わせて製品戦略を微調整する。
    • 例:新興技術の台頭、有力競合の戦略変更、法規制の動向などをウォッチし、先手を打つ。
  3. ブランド力の向上
    • 価格や機能面だけでなく、「信頼性」「サポート品質」「企業イメージ」を高めることで、顧客に選ばれ続ける土台を作る。
    • 例:業界団体への参画や、受賞実績の訴求、導入事例の公開など。

たとえば、市場で「負け犬」扱いのプリンタ事業があるとします。
コスト削減による低価格化と、特定業界(飲食店チェーン)向けにプリンタと専用用紙をセットで提案する形にビジネスモデルを転換。その結果、競合が少ないニッチ市場でシェアを獲得し、利益を生む「金のなる木」へと転換に成功する、といったシナリオが考えられます。

ここまでうまく行くことは簡単で無いにしても、ビジネスの位置づけややり方を大きく見直すことで再成長する余地は残されているでしょう。

よくある質問(FAQ)

Q1. PPM分析はどんな企業に向いていますか?
A. 中堅〜大企業、複数の製品ラインや事業を持つ組織、事業部制企業に特に向いています。

Q2. 小規模企業でも使えますか?
A. はい。事業数が少なくても、将来のポートフォリオ計画や優先順位付けに役立ちます。

Q3. 数値データがないのですが分析できますか?
A. 主観的な評価でも仮説ベースで分析を進めることは可能です。数字がある場合はより説得力が増します。

Q4. テンプレートは無料ですか?
A. はい。アイディア・レーンでは、PPM分析をはじめとする多くのテンプレートを無料で利用できます。
👉 テンプレート一覧を見る


まとめ:戦略的思考を言語化し、可視化せよ

PPM分析は、単に事業を4象限に分けるだけの手法ではありません。
「選択と集中」という重要な戦略判断に対して、冷静かつ構造的な視点を与えてくれます。

思考整理ツール「アイディア・レーン」を活用すれば、この分析を直感的に行えるようになり、議論の土台にもなります。

新規事業の選定、投資判断、経営会議、戦略立案。
様々な場面において、「見える化された戦略判断」意思決定を後押しします。

関連リンク

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次